帰り道
夏の晴れた日のこと
日陰のない一本道をゆっくりと歩く
うちわでぱたぱたと仰ぎながら
君は振り向く
「コンビニに寄ろう」
僕の返事なんて全く聞く気のない彼女は
1番近くのコンビニにずんずん入っていく
高い位置で束ねた髪が揺れる
汗がにじむうなじを横目で見ながら
僕はその後ろに続く
コンビニという世界に入った僕は
冷風に吹かれ 1人異世界を楽しむ
ぼーっとお菓子のコーナーを見ていると
彼女はカフェラテ片手に買い物を終えていた
「いこ」
彼女の短い言葉に引きずられ
異世界への名残り惜しさにそうっと蓋をした
彼女がカフェラテを買う時は機嫌がいい証拠
夏の戯れにも負けず 1日をやりきったご褒美
いつかそう言っていた
彼女と別れてから数分
ぼーっと彼女の背中を見送り
その姿が見えなくなってから
そっとコンビニに入る
さっき感じた冷風も 異世界も
今は僕の前に現れない
まっすぐにドリンクコーナーへ向かう
僕はコーヒーが苦手だ
ミルクを入れても 砂糖を入れても
全く好きになれない
彼女の飲んでいたカフェラテを持って
レジに向かう
外に出てみると
夕暮れで空が紅く染まっていた
絵の具
白いレンガの道をゆく
街灯の明かりが照らす細い道
1人静かに歩く
携えていたはずの地図は
どこかで落としてしまったようだ
持っているものは
未来への期待と未知への不安だけ
過去の自分を白と黒で塗りつぶし
わずかな絵の具で未来を描く
時折すれ違う人はみな
自分とは違う顔をしている
ここはどこだろう
手探りで見つけたものを手放せず
持っていたはずの絵の具をこぼしてしまった
あの日の僕はどこへ向かうのか
鏡に映る知らない自分と
街を歩く知らないあの子
大きく膨らむ知らない感情を
愛していきたい